毎年毎年、親の手伝いをしてきた染め物に、今年は自分も腕を通す。春の空の色。新しい匂いに鼻が痒くなる。 伊助が忍者になるなんてねえ、と母が笑う。父は五年生用の染め物に精を出している。 「僕、知ってるよ」 「何をだい?」 僕、知ってるんだ。伊助は笑う。母のように、優しく。 「何でもないっ」 「変な子」 「在庫確認してくるね」 知ってるんだ、僕は、生け贄。仕事を請け負う代わりに、差し出される頭数。 だったら優秀な忍者になってやろうじゃないか。誰よりも強い、負けない、自分を入れてよかったと思わせる忍者に、なってやる。 |