わあ、面白そう、の好奇心がここまで持続するとは思っていなかった。 巨大からくり部屋にひとりで、深呼吸をひとつ。ずいぶん響いた。 でね、床板が下に落ちて、一緒に僕も落ちたんだ、と兵太夫が言葉足らずに説明するのを、いつまでも聞いていたかった。体はぼろぼろで打ち身だらけで、それでも兵太夫は興奮で頬を赤らめて。 からくり、と兵太夫は言った。僕にも作れたらいいのに、三治郎にも見てほしいな、兵太夫ひとりで始まったからくり制作に、いつからか当たり前のように三治郎も隣で作業し始めた。 より大掛かりなからくりに、ふたりは息を弾ませて飛び上がった。ねえ、ところで、と兵太夫が言葉の調子を変えたのはその時だった。 「どうして手伝って、っていうか、一緒にからくりを作ってくれるの?」 排除ではなく純粋な疑問に、三治郎は肩をすくめ、成り行きかな、と言いかけ、そんないい加減な理由じゃない、としっかり自覚した。 「夢中になれるかと思って」 父に連れられて行く道は、人ひとりいないような獣道で、見えてはならないものや、見てはいけないものや、この世に存在しないものがたくさんいた。 区別なく接しようとすれば、父はたちまち三治郎の手を叩く。ああ、これは違うんだな、とその時に気づき、次からは気をつけようと心に留めるが、見分ける能力のない三治郎には、黒い何かがわだかまっているのが、小さな子供が泣いているように見える。 「夢中で楽しかったら、きっと見えないから」 学園内にも、山で感じた有象無象の何かがいる。眠っている間に何かされるのでは、と思わせるほど強い悪意をぶつけてくるものもいて、たびたび兵太夫の布団に潜り込んで気持ち悪さを紛らわそうとした。 それはいつしかからくりに夢中になることに置き換わり、夢は暖かく、不安のないものに変わっていった。 兵太夫は疑問できょとんとした顔になったが、そうかあ、とそれだけ言った。 一年がかりの深呼吸は閉鎖空間によく響いた。地下へ手を伸ばしたのは、単純にからくりを仕掛ける場所を増やしたかったのと、三治郎にはもうひとつ、大切な意味があった。 わだかまるそれに微笑み、幼子に語りかけるように優しく諭す。 「僕は幸せだよ」 だから山へお帰り。 手が触れる寸前で、かき消されるようにそれは消えた。 夏に帰った時に、泣いている小さな子がいたら手乗りのからくりをあげよう。 上階で兵太夫が呼んでいる。今行くよ、と答え、二度と振り返らない。 |