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何分の一かの確率


どうして保健委員になったんですか、と聞かれた。大した理由はないよ、と答えた。たくさんの理由が胸の奥で喧嘩していた。

「僕も、大した理由ではないんです」
「そう」
「そうなんです」

左近はまだ何か言いたそうな顔をしていたけれど、さっさと薬の調合に掛かることにした。ごりごりと、そればかりが胸を刺激する。
一年は伊作と薬草を摘みに行った。一昨年の自分を後ろに重ねて見送った背中はずいぶん小さくて、でも何かに溢れていた。

「保健委員になったの、じゃんけんだったんですけど」
「うん」
「なってよかったです」

左近もすり鉢を用意して、削り出す。もう何か言うべきことはないらしい。静かに空間を楽しんでいるようだった。

「僕は、くじ引きだった」

ぽつりと呟いた一言に、左近は顔を綻ばせて、幸せな不運、と笑った。