努力が全てを追い抜いてくれるのは幻想だ、と立花先輩は言った。僕らはそれに頷けなかった。 藤内先輩は努力を盾に生きている。認めたくないけれど兵太夫も、もちろん僕も。綾部先輩の手の豆もそれを物語っている。 それに一番は、立花先輩だ。毎日夜遅くまで自主練習を欠かさない。 「でも、立花先輩は……」 「わたしは凡人だから努力をするのだよ」 凡人は集まって膝を突き合わせて、作法室で天才を夢見る。 じゃあ、天才って七松先輩みたいな人ですかね、と兵太夫がおずおずと言って、よくできました、と頭を撫でる立花先輩はどこか悲しそうだった。 |