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月並みに跳ねる


「おばちゃんとお団子作ろうよ」
「だめ、今日は訓練だって決めたじゃないか」

とたとたと走ってくる足音に想像はしていた。昨晩、誰かが楽しそうに談笑していたのを聞いたのだろう。明日は十五夜だよ、月が綺麗だよ、寝る前、何度も念を押していた。
昨日、食事当番だったのに、どうして今日も食事を作らなければならない。釜戸の前に立つのは女の仕事であって、男はその空間に不用意に立ち寄るべきではない。父の教えががんじがらめだ。お団子食べたい。

「訓練訓練って、訓練がそんなに大事?」
「大事に決まって――」
「じゃあ」

大事に決まってるじゃないか、だってだって自分は武士の子で、一日たりとも訓練を欠かしてはならなくて、本当は昨日だって訓練をしなきゃならないのに食事当番で一日が終わってしまって、だからだから。
ぐちゃぐちゃになりそうな理論はたった三文字に潰されてしまった。
じゃあ、どうするというのだろう。

「今日はお団子を作る訓練にしようよ」

決まり!と我ながら名案のように兵太夫は手を叩き、ああもう先にひとりで混ざっていたのだろう、手が粉を吹いた。
仕方ないなあ、仕方なくなんてないのに、粉だらけの手を掴んで一緒に歩く。虎ちゃんが天才的に上手なんだよ、とか、雲が掛からないといいなあ、とか、押さえきれないわくわくがこちらにも伝染してくる。

明日は今度こそ訓練なんだからね、と言うと、固くなったお団子を食べる訓練は確かに大事だ、と大真面目に頷かれたので、何だかおかしくなってちょっと先を歩いた。