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夜中の昼顔


実習があるから、とやってきた三郎の顔をじっと見て、三郎次はその変装に目を見張った。それは多分、自分だった。

「君の顔は難しい」
「そうですか」

お前の顔は特徴がない、と久作に言われて(庄左ヱ門と大差ないくせに)から、ほんの少しどこかに引っかかっていた気持ちが、適当な返事にすべて表れていた。
他の人の変装は本人と見紛うばかりなのに、どうして自分の時はこうなのだろう。完璧な変装をしてくれれば、久作の言葉は灰になって、ふっと飛ばされていくはずなのに。

「いい顔をしている」
「そうですか」

おとなしくいつもの変装でもしていればいいのに。彼も思うのだろうか。この変装は、自分ではないと。自分ではないと分かって、存在を許し続けるのか。
煙硝倉は寒いから、体が縮こまり始めていた。

「きっと君は、変装の達人になれる」

まっぴらごめんです、と言えなかったのは、火薬の立ちこめる空気が喉に引っかかって、うまく唾が飲み込めなくて、だからだ。