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ひなどり


ふふ、と笑って一年を撫でる立花先輩の顔は何より穏やかだ。目を細め、屈託ない一年と同じように笑ってみせる。
潮江先輩が見たら、隙だらけ、と呆れるかもしれない。そう思うと、作法委員会限定に開かれる立花先輩の扉から、暖かな空気が出ている気がしてくる。雪解けを感じさせる、春のような。

「何がおかしい、藤内」
「いえ、何でもないです」
「わたしに隠しごととは、なかなかいい度胸ではないか」

ふふ、と立花先輩はまた笑う。一年が立花先輩の後をついて来て、ひよこみたいだ。

「春だなあって」
「春?」
「春です」

立花先輩は親ひよこ。鶏とも言う。白い肌は雪のよう。今はぽかぽかと紅潮して梅になっている。
春になったら、と言いながら、立花先輩はみんなを総括して抱きしめた。いつもより強い力で、ぎゅっと。

「また一年が始まる、な」

そうですね、と言葉の意味を推し量れる優しい一年が抱きしめ返し、素直になれない枯草色の体が挟まれた。