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井戸と砂時計


毎日が長いと感じる時が確かにあった。人に与えられた一日は誰にだって平等だというのに、それでもあの時、太陽が沈むまでの時間は今より長かった。
イゲタ模様に袖を通ていた時は、長い一日に疑問を抱かなかった。今は、違う意味で長い一日を送っている。
そんな気分で井桁模様を目で追いかけていると、ちょい、とつつく肘があった。いつの間にかここまで来てしまった、と思わせる枯草色が辛く当たった。

「あれを見て、若いな、などと言うのなら」
「何だよ」
「わたしはその喉をかっ切るからな」

さらりさらりと漆黒の髪が揺れる。変わらないのは髪ばかりだろうか。六年間同じ教卓を前にしていたが、分からない。

「あんなことがあった、こんなことがあった、なんて思うには早すぎる」

同じ時を過ごしてきた級友は、いまだに考えることが読み取れない。分からないことだらけなのに、今までやってこれた。そう言うと、わたしのことが分かるはずがあるまい、と鋭く言われるだろうから、口にしない。
だから次の言葉も分からない。分からなくても構わない。

「わたしはまだおじいさんではない」

んなの分かってる、と肘でつつき返す。分かっているならいい、と口の端を上げてみせるその顔は、五年前と同じ顔だった。