あの池に小さな魚がいるんです、と服の裾を掴んでしゃがんで、ずっと離してくれない。 学園長の気紛れで作った池には魚なんていない。四年もここにいれば分かる。見ていても何かが揺れる気配はない。 「金吾」 「兵太夫」 大丈夫だから、と声が被さる。綾部は一年から同級生に目を向け、嫌だ、滝と同じこと言っちゃった、とあからさまに嫌そうな顔をした。 笑っていいのかだめなのか、一年は顔を見合わせて、少しだけ俯く。池には何もいない。 「大丈夫だから」 ぽん、と乗せられたは軽く優しい。わたしは学園一優秀だから、とほらは吹かない。ただ、大丈夫、とだけ。 「お土産は魚にしようか」 「綾部先輩、山城に行くんじゃありませんでしたか」 「じゃあ里芋で許して」 ぽつりぽつり、笑みが増えていく。 金吾も兵太夫も喧嘩をしないで待っているんだぞ、とふたりを抱きしめて滝夜叉丸が呟く。はあい、と声を合わせてふたりは水面に浮かぶ里芋を想像した。 |