三治郎は見えないものが見える。 それは兵太夫には見えなくて、周りの誰にも見えていない。 からくりを作るために穴を掘っていると、三治郎は壁に手を当て、何かもやもやと呟いている時がある。 そういう時は兵太夫は何も言わないで、ひたすら穴を掘り続ける。 そして用が済んだら、はにかんだ悲しい笑みを浮かべ、「兵ちゃん」と腕を掴んで立ち止まり、必ず少し休憩を取る。 「三治郎、おにぎり食べようか」 「うん」 暗がりにろうそくが一つ、あとはお互いの顔だけの世界。 兵太夫には三治郎の顔しか見えていない。 三治郎もそうだといいな、とおにぎりを噛みながら思う。 |