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メビウスの秤


「一年ってかわいいですよね」

小さな肩を並べ、同じ本をああだこうだと指差し合う。一年全体に出た課題についてらしい。
こんな簡単な問題、と藤内は思うけれど、二人が、分かりませんか、と声をかけてくるまでは黙っていようとむずむずする。
ねえ、立花先輩。見上げた最上級生は嬉しそうに瞳を細め、藤内の頭を撫でた。

「お前が一年の時もこんなんだったぞ」
「立花先輩は昔から変わりませんね」
「そうか?そういえば藤内はずっと本を読んでなかったか、今のあいつらみたいに」

仙蔵の言葉に反応して、小さな頭が揃って上を向き、何の話ですか、と混声する。
藤内の一年の時の話、と仙蔵が優しい瞳で二人を招き寄せると、課題を畳に置いたまま、藤内にへばりつくように隣に腰を下ろした。

「浦風先輩にも一年生の時があったんですか」
「兵太夫、何馬鹿なこと言ってんだよ」
「だって伝七だって思わない?何か変な感じ」

浦風先輩は三年で、三年で、三年なのに。意味分かんない、と言う伝七もきっと同じことを思っている。
兵太夫と伝七の間にいる藤内も、二年分時の針を戻せば同じ身長で。池田模様が皺になっては戻る。

「立花先輩も綾部先輩も、みんな一年生だったんですよね」
「おやまあ、それは違うよ。わたしは入学した時から永遠の四年生だから」
「だったら僕たち先に卒業しちゃいますよ」
「悲しいね、どっちか残ってくれないかな」

こそばゆく緩やかに続く言葉の連鎖に作法はない。