Come on,いつき!ぐいと引かれる手に身を委ね、びゅんびゅん流れる景色に口を惚けた。 あおいおにいさんの大きな右手には、王女様にはなれそうにもない畑仕事の汚い手。左手には、二枚の細長い色鮮やかな入場券。そして、おいで、と言う。同じ速さで走ろうとすると、フェルトのポーチが宙を舞った。 「夢みてえだ」 跳ねる心臓が何だかむず痒くて、渡されたアイスの冷たさにびっくりする。らしくないひらひらのスカートにこぼさないように、そればかり。 「dream?幕切れにはまだ早いぜ」 「もう、十分」 「飽きたか」 そんなんじゃなくって、と弁明しようとしたのを遮って、あおいおにいさんは、じゃあ、と案を提示してみせた。立った人差し指が、すらり、おてんとさまを向く。 「乗り物はしばらく止して、paradeを見て、lastに夜景を見ながら観覧車ってのはどうだ」 あおいおにいさんは何でも決める。だもんだからいつきはいつでも首を縦か横に振るだけだ。今は縦。いいね、素敵。伝えたい言葉はあおいおにいさんの口の端っこに消えた。 アイスはきっと、渡された瞬間から溶けていた。 「おにいさん、」 ロマンスの星が一つ落ちる。おにいさんは知らないおにいさんを追っていなくなった。長蛇の列の真ん中で、一日券を握り締めたいつきは一人きり。 「観覧車から、おにいさんは見えるべか」 見えないんだろうな。アイスの魔法は溶けてしまった。おとぎ話の王女はアイスクリームを食べれない。きっとそれだけのこと。 |