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雨やさめ


今日も雨が降っている。音で目を覚ました幸村は、枕から頭を離せないまま、じっと天井を見た。雨の声に混じって鈴の音がしないか待っていると、雨の代わりに水道から水が落ちた。
自転車は使えない。雨の日はバスが混む。坂は左がくぼんで小川になっている。靴に防水スプレーを掛け忘れたため、じわじわと染みていく。ため息を吐いたら白かった。

ちりん、ちりん、と雨にも関わらず自転車が通る。よお、と掛けられた声に応えない。どうした、にも俯いたまま。なあ、で、とうとう幸村は坂を登るのを諦めた。

「何があった?」

伊達男は知らない。依存していたのは自分の方だった。忍は苦笑し、主君の我が儘に応えるだけ。忍から求めることはない。
だから今も、一人未練がましく記憶を持ち、猫に名前をつけ、いなくなれば憂鬱な雨が降りだす。

夏はいつまでも来ない。湿った梅雨を繰り返すばかり。