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赤半紙


「すずりで墨をすりおろすなんて何年振りだろ?」
「中学ん時はやってないよね。あれ?旦那、何かあった?」

ござる幸村は書道が大好きでござる。日本語は任せて欲しい。しかしどのすずりにも美しい漆黒が艶々と輝いている。どうやら皆、得意のようだ。書道は墨が命、という上杉先生の妙なこだわりの下、ごりごりと墨をすりだしてもはや三分となる。
幸村はどうしてもみなぎる字しか書けなかった。それが幸村のよさであるのだが、幸村は静謐な字に憧れていた。繊細で滑らかな字。見たことがある。かすがの字だ。
ぽかんと見つめる先には、かすがのすずり。見ようによってはかすがの胸を見ているようにも見える怪しい位置である。しかし幸村は純粋にそのすずりを凝視している。

「繊細な字を書くためには、血が必要なのでござるね」

一つ納得、二つに実践。麗しき上杉先生に鼻血ブーのかすがを見習い、幸村は我が拳を鼻に突き当てた。痛くて繊細どころではなくなった。