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二重


「俺の右目だ」

そう言われてから、世界が変わったような感覚に陥ったけれど、民衆の生活も、織田の強大な支配力も、何一つ変わっていないのだと思い知らされる。足元に落ちる石も、昨日と同じ。灰色の塊だった。

「俺には不可能なんて見えねえ」

高く笑う主君は有り難い性格をしている。天下を取れるのだと、彼はまだ信じ込んでいる。
不可能の三文字が、見ていた石に浮かび上がる。蹴飛ばして、昨日と同じではなくなった足元は、何だか少し軽くなったような気がした。