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立ち上がる、宙に


「俺が猿飛佐助であるかを決めるのは、あんたじゃないんだ」

かすがちゃんかすがちゃん、と馴れ馴れしく呼んでついて来るくせに、肝心のところの線引きは外さない知り合いが憎らしい。草に隠れた大地に線を引くと、赤い土が現れた。踏みつけても満足は得られない。
わたしだって、とかすがは言う。謙信が脳裏に過ぎる。先程へらへらとついて来たあの馬鹿の顔が浮かぶ。止めてくれ。名前なんて知りたくない。

「価値は名前ではない、だろう」
「でも、俺は猿飛佐助だから」

だから何なのか。だからどうして流れる赤い鉢巻きが、こんなにもきつく胸を締め付けるのか。白く鮮やかに咲き誇る花を摘んだのは誰だ。
彼は二度と名を呼ばない。