荒れ果てた大地に残るのは、なくしたと思っていた右の下駄。足を通せば、からん、と侘びしく鳴り響く。両方合わさって、からん、ころん、焼き疲れた煤を払う。 濃姫さま、と蘭丸が呼んだ。 「見つかったんですね」 「ええ、あったわ」 下駄がなくて出陣できない、と焦った数日前が、まるで今のように目の前を巡る。結局、代わりの下駄を用意したけれど、ひどい靴擦れができてしまった。 それと一緒に、幼い日に、従兄が庭に立っている姿が重なる。 ねえ光秀、あなたでしょう、下駄、隠したの。 知りませんよ、と笑い、一人庭を散策する従兄は、もういない。下駄が一体どこに隠されていたのか、濃姫には分からない。 |