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陰ばかり


「しょうし」

謙信は虚ろに微笑むばかりで、それ以上の返事はくれなかった。これ以上何かを申すのなら、首をはねますよ、と虚ろに微笑んだ。

若い忍を抱え、崇拝の目になっているのはどのような気分かと思う。幸村を見る佐助とはまた別の、柔らかな感情が入れ混じった視線。謙信からの視線も穏やかな木漏れ日を感じさせて、微笑ましい気持ちになる。
ならばいっそこのまま全てを運命に委ねてはどうかと提案した。酒宴の席であったし、多少の冗談ならば許されると思ってのことだった。

謙信はあくまで穏やかに席を立ち、闇に消えた。

「焼死、とな」

美しくて触れられません、と忍は頬を染め、謙信は白い肌をそのままに微笑む。
しかしその白い奥に隠された気持ちは、甲斐の業火と同じほど熱を持っているのだろう。お互いに触れられない、光のような幻想が、信玄には懐かしくも悲しい。