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その姿


ではでは俺様は退散致しましょう、というのが常。政宗は幸村に会いに来ているのだから、べたべた引っ付いたままでいるのも失礼な話だ。幸村は政宗を紹介したいようであるが、佐助としては「冗っ談!」の一言に尽きる。正直な話、政宗に会いたいなんて思わない。二人の大切な時間を邪魔しちゃ悪いなんて、体のいい逃げの言葉だ。

(きっと分かんないね)

佐助は政宗が羨ましい。幸村に対等だから、佐助に持っていないものをたくさん持っているから、指を折りだせば切りがない。とにかくひどく憧れる。認めたくないけれど、政宗は佐助のなりたい姿そのものである。ずるいずるい羨ましいよ独眼竜の旦那、と冗談めかして言えるほどちっぽけでないのも、また嫌になる。

(旦那も独眼竜も、凡人の悩みなんて分からないに決まってる)

ため息を吐くより簡単に、いつもの避難場所に飛んでいく。昔、幸村と見つけた眺めのいい木の上。見つけにくいけど見つけやすくて、分かりにくいけど分かりやすいその場所に、今日はぽつんと人影が一つ、足を組んで座っていた。
だから佐助は政宗を羨望する。

「…竜の旦那」
「アンタと話がしたくてな」

事もなげに口の端を上げてみせる姿がまたずるい。幸村と約束した小指が変な具合に熱を持つ。誰にも言わないって約束したじゃない。思った言葉を見透かして、政宗は声を上げた。

「アイツから聞いたんじゃない」
「じゃあどうして」
「竜だから」
「そんならおとなしく天に昇ったら?」

苛々している自分が嫌だ。どんな気持ちでどんな態度で接したらいい?何度も考えたことがあったが、接触しなければいいと先延ばしにしてきた問いだった。答えを出せないのは分かり切っている。なりたくてなれない自分に対面するのほど、ばつの悪いことはない。
独眼竜は更に笑ってみせる。俺が嫌いか、と言わんばかりに佐助を見る。

(早く天に昇ってよ)

目を逸らして心の中で呟いたそれに呼応して、政宗は静かに木を降りた。根元から、邪魔をしたな、と手が挙がって、もう一生、佐助には会いに来ない。