ログ | ナノ
燻製貝


茶だとか傭兵には本来関わりのないことさえ粗相なしにやってのけるので、それが伝説の忍たる所以なのかと思わず頷いてしまいたくなる。つんと立った茶柱の先を眺めていると、寒いだろうとの気遣いだろうか、忍は火鉢を突き始めた。

「風魔」

冷えてしまった茶をぐいと飲み、氏政はいつの間にか掛けられていた羽織り物に腕を通した。名を呼んだその瞬間から、忍は音を立てずに火箸を置き、命を待っている。

「縁側で囲碁でもやろうかの」

いつもならばもはやひゅんと風のように全てを用意し、一番日当たりのいい場所で待っているはずの忍は、鈍く首を埋めて立っている。一応手には碁盤を持っているが、消えて用意する気配はない。

「風魔?」
「………」
「もしや、できぬのか?」

忍は肯定も否定もしない。ただ碁盤を手に立っている。ひどくおかしい。吹き出すような深呼吸を一つ、氏政は先に襖を開けて縁側へ出た。

「戦は遠い。どうじゃ、やってはみんか。わしが教えてやろう」

ふっと風が耳を掠め、過ぎ去った方向を見ると、座布団が二つ、片方に忍が座っていた。