「旦那さ、その家紋の意味分かってる?」 佐助は遂に六銭の背に尋ねた。血に塗れて消えかかっている家紋は、夕日とも相まって、宙にぽっかりと浮かんでいるように見える。背は振り返らない。佐助は片目を閉じ、風に六銭を描いてみた。 「三途の渡し銭であろう」 「分かってんならさ、」 分からないのならよかったのに。分かっているなら意地が悪い。むかむかとしてくる。どんな顔をして言っているのか、全く想像がつかないのが厭わしい。 「俺様に背負わせないでくれない?」 「不満か」 「不満ていうかですね」 「佐助」 「何すか」 忍は身軽が鉄則なんだから。言いたかった言葉を飲み込んで、ようやく振り返った主君にとんがった口を向けてやる。主君の顔は逆光でよく見えない。よく見えないのに、よく分かる。 「某は、某の渡し銭を佐助に預けたつもりでいる」 佐助はどうだ、と言いたげな太陽に、佐助は思わず顔を背けた。 (だから重いんだよ) 「分かってんならいいんですけど」 答えになっていないのは分かっている。それでも早口で言い、先に戻っています、と退散した。受け取ってしまった三途の渡し銭が音を立てて、静かに終局を待ち始める。 |