水底になりたいと願った。たとえ表面が蒸発して消えていこうと、寒さに凍ってしまおうと、四度を保ったまま、対流を起こさずに、死ぬように生きていきたいと思ったものだった。それは確かに叶うはずだった。 水面に浮かべた葉が揺れて、光秀から逃げていく。どんどん遠ざかり、手の届かぬところへ行ってしまう。いつの話か、もっと近くで蓮の花を見たいわ、愛しい姫はそう言った。風に吹かれて花は遠ざかるばかりで、耐え兼ねた光秀は水へと飛び込んだ。花は真正面から水を被り、底へと消えた。 (花よ、) 水になりたいと思った。あの時とは比べられないほど惨めな葉でもいいから、とにかく掴みたいと願った。光秀が水ならば、水を地に変えることは動作もないことのはずだった。 (どうか遠ざからないで) 一番の願望を、光秀は、いつまでもいつまでも願わなかった。 濡れた腕を振り、血を落とすのも忘れ、ぼんやりと、立ちすくんだまま。 |