現代 | ナノ

餃子


ノックに笑顔で応え、慶次は立て続けに色々な店を挙げた。
雰囲気がいいのは、料理がおいしいのは、女の子の量がちょうどいいのは、長居できるのは、エトセトラ。

「でもま、きっとお市ちゃんならこう言うね…」

「長政様が決めたお店がいいわ」

市は長政の手を取った。
飽和してしまいそうな店の名前を指折り指折り。
そんなのいらない、と言わんばかりに。

「ファーストフードでも、牛丼でも、何でもいいの。長政様が決めて、ね?」
「…市は何が食べたい」
「長政様と一緒なら何でも。でもね、どうせなら、中文らしく餃子なんてどうかしら」

慶次の選択肢に餃子はなかった。
それは相応しくないと考えたからなのか、市が言うだろうからわざと言わなかったのか。
そんなのはどうでもよかった。
餃子店には慶次たちがいて、何食わぬ顔で冷やかしてくるだろう。
それでもよかった。