ヤキュウ 「え、帰っていないんですか?」 携帯電話は聞き取りづらい。 半兵衛は精一杯耳に意識を集中させ、電子化された音声を聞き取ろうと努力する。 『慶次がどこへ行ったかご存じありませぬか?』 小さな発話口を指で塞ぎ、半兵衛は秀吉を見上げる。 確かに見送った、しかしその後は知らない。 知っているのは、新潟へ行く、と冗談で言ったこと。 「いえ、僕たちは…」 『そうですか…、慶次の居場所が分かりましたら、連絡をください』 夏休み、桜前線が北上するように、二人も北上しなければならなくなった。 今年は甲子園に通いたい、と秘めた思いを口にしなくて本当に良かった、と秀吉が思ったのは秘密である。 |