現代 | ナノ

寒さ


いつもの待ち合わせ場所で、不意に思い出した。
マフラーに顔を埋め、どうしようもない気持ちと格闘しながら慶次を待つ。
昨日、初雪が降った。

「悪い悪い、ちょっと寝坊した」
「いや、時間通りだよ」

寒さで冴える頭が、いつかの日を思い出させる。
慶次は歩き出す。
半兵衛は、止まったまま。

「半兵衛?」
「僕、君のことが嫌いだった」

マフラーから白い息が漏れた。

「嫌いだったよ」
「…そっか」

そして、慶次に並んで歩き出す。
俺は昔から好きだった、と慶次が言った、気がした。