現代 | ナノ

三倍馬鹿


パスケースを落とした。
じゃあ金を払えと言われた。
財布を忘れた、と正直に言うと、今にも殴りかかってきそうな顔で運転手がこちらを見た。

天使に見えた。
パスケースを持って名前を呼ぶ、天使。

いや、パスケースが、天使。

「顔忘れてたんだよ、うわー、ひっでえ顔で見ちまった、しかもストーカー的な何かだと思ったし。俺、最低じゃねえか…」
「そうそう、最低だよ。だから早く謝ってきたまえ」

部活見学の時間になり、ようやく解放されたかと思うと、政宗はすぐさま座り込んで友人を見上げた。
明らかに面白がっている。
中学生に振り回されているなんて滅多にない光景だから、逆の立場なら三倍馬鹿にしているだろう。
だから、政宗に比べて一倍の友人は多分いい友人だ。

「…うい、行ってきます」