現代 | ナノ

演歌歌いの竜


伊達ちゃんは枯れた声で、何も話すことはねえ、と言った。

「風邪?」
「いや、歌いすぎだと思うが…何にせよ俺から言うことは何もねえ」
「みんなそう言う」
「忘れてんならそれでいいじゃねえか」

伊達ちゃんは玄関にもたれ掛かって、潤んだ目でこちらを見ていた。
笑う一歩手前か、風邪の顔。
どちらだ。

「…じゃあ、かすがに聞くしかないなあ」

ゴホッ、と咳をした。
どちらだ、どちらなんだ。