竹篭失墜 「風魔、おるか」 ご老体のいつもの声に急かされ、小太郎は兜に隠した目を開く。 季節は春、あの日から何年経ったのか、もう覚えていない。 先代風魔の伝手を頼って渡り歩く傭兵として、小太郎は初めて安息の地を手に入れた。 「困ったのじゃ、押し入れの奥にあるはずなのじゃが…」 傭兵とは名ばかり、毎日がこのご老体の世話。 戦の際には給料分くらいは働こうとは思うものの、最近は領地ぎりぎりでのにらみ合いばかりで、中央にいる小太郎まで仕事が回ってこない。 「そう、それじゃそれじゃ!」 ご老体は竹篭を手に入れ、微笑んだ。 絶対の味方であると、確信した微笑みだった。 |