一時矛盾 「ねえ、旦那」 「何だ」 まだ落ち着きのない上田城を見回りながら、佐助はようやく尋ねることができた。 夕暮れの、初夏。まだぐずぐずと春の匂いを感じる。 「あの人、何だったんだろうね」 「さあな」 兵士たちは、みな頭か腕に手をやっている。 青く腫れ上がったそこに冷たい手ぬぐいを当てて、ふらふらと夜間の警備についている。 「奥州にも行ったらしいよ」 「…政宗、殿は」 佐助は肩を竦めて、それ以上は何も言わない。 「…いや、いい」 独眼竜も、やられた。 噂では、安土城へ向かっているらしい。 風来坊は風で、風を読めない佐助は、今はもう幸村の真意さえも掴めない。 |