愛撫愛狐 早く帰ろうよ、と手を引かれた帰り道。 迷ってしまって半べその顔。 家に着いた時の、涙を振り払う笑顔。 十の子は、かすがに似て強く美しい。 「お館様!ただいま戻りました!」 武田の屋敷は、おんぼろ我が家とは似て非なる住居。 ただの子供だと思っていたが、武田の屋敷に帰るということは、相当の地位であろう。 「おお、帰ったか。はて、その者は」 「某の…いえ、武田の忍としていかがかと思いまして、連れ帰りました」 十の子の話のなすがままにされる佐助は、かすがが狐の子を持ち帰った時のことを思い出す。 あの狐はどうなったのか。 忘れてしまった。 「お主、逃亡者か」 「ええ、まあ、…はい」 「分かっておる。大方近隣の武将のところだろう。あやつらは素行が悪くて適わん」 そう笑った武田信玄は、佐助に手を差し出した。 「忍の狐子よ、手を取るか」 |