職業 | ナノ

サボリテクニック


綺麗な黒髪にシャンプーを馴染ませると、薄いガーゼの向こうの口が動いた。

「眼鏡なんだけどね」

危うく飛び出るところだった、痒いところはございませんか、を飲み込み、佐助は手を止める。
綺麗な髪は、泡立ちが違う。

「レンズは入れたんだけど、鼻の高さとかの調整をしたいから、また来てくれるかしら」
「あれっ、でも昨日してくれましたよね?」
「レンズを入れるとまたちょっと変わってくるの」
「了解っす、旦那に伝えておきます」

まるで子供が歯医者を怖がるように、眼鏡屋を怖がる幸村の顔を思い出し、まだ手は止まったまま。
濃姫に控えめな声で、どうしたの、と尋ねられてはっとした。
半兵衛に見つけられて怒られる前で良かった。

「痒いところはございませんかっ」