ワックスコース 「で、今日はどこに行くの?」 「高級料亭で懐石ディナー」 ワックスを手のひらに取り、頭に乗せていく。 ガキの髪型は悩むことがないからいい、要は適当でもバレないからいい。 しかしこのガキ、高級料亭で懐石ディナー、羨ましい単語揃いで来た。 「もしかしてまつねーさんのとこ?」 「そうそう、信長様と板前が知り合いだから、ようやく予約取れたんだ、いいだろ!」 「いいなあ、俺様も慶ちゃんのコネで賄いだけ食ったことあるけど、あれはやばいね」 「やばいやばい。羨ましかったらお前も予約取ってみろよ、三か月待ちだけどな」 加賀屋だか前田屋だか忘れたが、加賀に伝わる伝統の味を再現した、とか何とかでたちまち人気になった前田夫婦の店、現在三か月待ち。 甥の慶次はとことん料理が苦手で、料理と全く関係ない仕事に就いた、というのは、ここに住んでいる人間なら知らない人はいない。 「懐石だけどツンツンでいいよね。七三とかにしようか、無理だけど」 「七三にしたら一生懐石食べれないようにするぞ」 「ごめんなさいツンツンかっこいいです」 羨ましすぎて変な髪型にしてやろうかと思ったが、2時の客が来たので止めることにした。 |