ウォッシュレス シャンプーをしていると、蘭丸がため息をついた。 「どうした小学生、世の中を憂うにはまだ早いんじゃないの」 「半兵衛ってさ、濃姫様のこと好きなんじゃないよな」 タオルで隠した向こうの顔は、どんな感じなのだろう。 これから大好きな信長と大好きな濃姫と出掛けるというのに、大きなため息と、ちょっと面白い疑問。 「へー、そう見える?」 「だってさ、髪型決めるのにあんなに夢中になってるんだぜ。服とか聞いたりさ、何か変だよ」 確かにいつもの半兵衛なら、髪型はすべて佐助に一任して、奥でだらだら紅茶でも飲んでいるはずだ。 しかし濃姫の時は特別。 普段から黒髪ストレートのアレンジヘアの切り抜きを集め、ああだこうだこれが似合うあれが似合うと聞いてもいないのに言ってくる。 本人が来たら来たで、「この髪型はどうだい」なんて爽やかに一つだけ案を出してみせる。 「うーん、単に黒髪ストレートが好きなんじゃないの」 「だとしてもさあ!」 「ま、うちらは客商売っすから、最善を尽くすのみっすよ」 まだ蘭丸は何か言いたそうに、タオルの向こうの口をモゴモゴさせている。 見えないのは分かっているが、佐助は最高の笑顔で尋ねてやった。 「洗い足りないところはございませんか?」 |