職業 | ナノ

カスタムトラベラー


まだ正午になっていないのに、島津の店には結構な数の客がいた。
古本屋とは大違いだ、今日は珍しく三人来たけど。

「島津のおっさん、ちわす」
「こんにちは」
「おう、ボウズども」

店主は気さくに手を振り、端のカウンターを指さす。
促されるまま座り、店内を見回すと、いつものやかましいアルバイトがいない。

「武蔵は?」
「ああ、あいつはちょっくら本場に帰ってラーメン食ってくるって、突然な」
「武蔵くん、ラーメン屋さんになるつもりなのかい」
「さあな。まあ、その話はええ。ワシ一人じゃ満足に接待できんが、何にする?」
「おっさんスペシャルで」
「僕も」

あいあい、と笑った店主の顔に、柔らかな笑い皺が窺える。
店主はまだ現役でそれを認めようとはしないが、おそらく武蔵がいきなり旅立ったのは、半兵衛が言った通りの理由なのだろう。