ディサイドワン それでも何とか似合わなくはないくらいの眼鏡を見つけ、明日には完成する旨の書類をもらった。 耳打ちされて分かったのだが、大分悪いらしい。 「黒板見えてたの?」 「一番前に座るからな、居眠りしないように」 「そりゃあいい心構えだ」 ぶつくさ猫背で歩き出す幸村の背中を叩き、腕を引く。 「大学落ちたくらい何さ、背中曲げちゃって旦那らしくない」 「…迷惑を掛けるな、と思ってな」 「もしかして、俺様が美容師に戻ったの、自分のせいだと思ってる?」 幸村は俯いたまま、さらに首の角度を鋭くする。 確かに美容師に戻ったのは幸村が予備校に通い始めたのと同じ頃だが、別に金に困って復業したわけではない。 「まあ、旦那のせいかもね」 「やっ、やはり…」 「旦那が頑張るって決めたからさ、俺様も頑張ってみようかと思って」 「…佐助」 「毎日ガリガリガリガリやって、竹中ちゃんくらい眼鏡の似合う人になってよ」 どうしても行きたい大学がある、と頭を下げたのが、半兵衛に店の相談を持ちかけられる一週間前だった。 もし信玄がぎっくり腰になっていたら、おそらく幸村は大学を妥協しただろう。 「どうしても行きたい大学なんでしょ?ほら、胸張って」 「…うむ!」 幸村は瞬きをした。 短い髪が、決意を表しているようだった。 |