職業 | ナノ

ショートトライ


「おはよー、旦那」

小銭ばかりが貯まっていく金庫をカウンターに置き、佐助は鏡に映る幸村を見た。
昨日までは目にかかるほどあった髪が、すっきり眉あたりに切られている。

「男前になったじゃん」
「半兵衛殿はお上手であるな」
「誉めたって何も出ないよ、ジュースくらいなら出すけど」
「かたじけない」

奥のテーブルにコップを三つ、紅茶の苦手な幸村のためにオレンジジュースを注いでやる。
生まれ変わった前髪での視界はいやに明るいのか、何度も瞬きをしている。

「目に入ったかい」
「いや、やはり髪を切るとやる気が出るな、と思って。そうだ、佐助も半兵衛殿に切ってもらえ」
「鬱陶しい後ろ髪を切り刻んであげるよ」
「勘弁して下さい」

幸村はまた目をパチパチさせて笑った。
佐助は自分の前髪の長さを知らない。