ネバーエバー 佐助は一階から弁当箱を二つ持ってきた。 案の定客は一人もいなかったし、金庫は二階だし、本を多少盗まれても気づかないから問題はない。 古本屋は基本、老後の道楽なのだろう。 「ほい、弁当」 「いつも悪いね」 「ちなみに今日はオムライスです」 旦那は五倍量です、と付け加え、半兵衛が淹れてくれた紅茶を飲みながらランチを始める。 毎日こんなにダラダラ過ごしているが、世間様からは割と働いている人種に見えるからありがたい。 立派に主婦業もこなしているから、日中は許してほしい。 「オムライスを弁当箱に詰める発想はなかった」 「ランチっぽくなるかと思って」 「うんうん、それっぽい。いいね、これ」 手紙のことなんて忘れたかのように半兵衛は笑っている。 手紙に明日帰ってくるだの今日帰ってくるだの書かれていたらと思うと、佐助は気が気でない。 まだこの空間を楽しんでいたい、なんてただの我が儘なのは分かっている。 それでも明日も、自分と幸村、家で休む信玄、それとこの同僚の分の弁当を作っていたい。 だから笑って、喜んでもらえるよう弁当作りに精を出す。 「じゃあ、また作るよ」 ハサミが怖い佐助には、今はまだそれしかできない。 |