職業 | ナノ

インカット


髪の毛を切るのが怖い。
旦那の前髪すら満足に切ってやれないなんて、間抜けな話だ。
だから三年勤めた店を辞めた。
それなのに半兵衛は必要としてくれた。

「駄目だ、駄目駄目」

自室でハサミを持ち、今日も練習用の頭に向かう。
どうして切れないのかは、自分でも分かっている。

「甘えてちゃ駄目」

たった一度の失敗で、トラウマになったなんて、佐助一生の不覚。
だから三年勤めた店を辞めた。
だからもうハサミなんて握らなくていいように、古本屋に収まった。

「竹中ちゃんが切ってくれるからって、駄目」

半兵衛は友人と共に専門学校に通ったが、自分の頭のセットだけはどうしてもできなかった。
髪のボサボサな店員に切ってもらいたい客なんてどこにいる?
それにプラスして、他人の頭のセットもあまり得意ではない。
まあ普通、レベル、いや、上手な女子高校生くらいかもしれない。
そもそも美容師に向いていないのかもしれない。
その代わり経理は抜群だ。

「切らなきゃ、ね、いつか…」

隣の部屋からは鉛筆の音がする。
夢に向かっている音が、何だか歯痒かった。