職業 | ナノ

ファームライアー


二階の準備は滞りなく進んでいるようだった。
機材がどんどん運び込まれていくのを、開いた出入り口からぼんやり眺める日々が続く。

「こんにちは」
「…ああ、えっと、竹中さん」
「僕は工事の邪魔みたいだから、避難してきました」
「そうすか」

常連はまたよく分からない本を一冊、買うのだと言って差し出してきた。
しょうがないので机の下に隠した手を出し、裏表紙に貼られた値段を見るために捲る。

「350円?…50円でいいっすよ、これ」
「やっぱり」
「50円くらいの価値しかないっすよね」
「君、カットの経験は?」

すぐに隠そうとした手を、思いっきり引っ張り出される。
指にできたタコをまじまじと見られ、返事をする前に何度も頷かれ。

「君にお願いがあるんだ」

夏に農家でアルバイトをしていて、ハサミで収穫をしていて、だからタコがあるんです、なんて間抜けな嘘はつけない視線に、佐助は観念して大きなため息。