オクトパススパイ 家に帰ると、すぐに炒飯の支度を始める。 ネギを刻んで、ご飯の冷凍を解いて、そして。 二階が美容室になるのだと知ったのは、信玄がぎっくり腰で倒れた翌日だった。 幸村は勉強があるから、暇な俺様が代理で店番しますよ、なんて安請け合いした翌日。 「これから工事で少し騒がしくなりますが、よろしくお願いします」 丁寧に挨拶に来たのは、店の常連。 どこから引っ張り出してきたか分からない小説をたまに買いに来る、紫の眼鏡をした文学青年。 いつも整った服と、顔と、髪。 「何の店っすか?服屋とか?」 「いや、美容室」 「美容室!」 「…そんなに驚かなくても」 無造作な髪がふわりと揺れる。 ああ、だからか。 それなら古本屋の代理なんて絶対に引き受けなかったものを。 佐助は苦々しく手を隠した。 ハサミのタコが、まだ消えていない。 |