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リサイタルデー


古本屋の横の階段を昇ると、綺麗に磨かれたフローリングと大きな鏡、明るすぎるほどの照明が待ちかまえていた。
古本屋は暗く地面は見えなく、壁には本しかない。
一階と二階とが共存した建物とは思えない。

「あれっ、いつきちゃん、これからデート?」

半兵衛に背中を押され前に出てきた、近所の小学校に通う児童が佐助を睨む。
そう言えばまだ古本屋のエプロンをしたままだったし、耳に赤青鉛筆を差したままだった、明らかに怪しい。

「馬鹿言うな、これからピアノの発表会だ」
「へー、で、俺様の出番ってわけ」
「おらは別にこのままで構わねえんだが、政宗がどうしてもって…」
「うんうん、オッケーオッケー。俺様に任せちゃってよ」

エプロンを脱ぎ、赤青鉛筆を置き、半兵衛から政宗が迎えに来る時間を聞く。
おいおい、10分しかないってか。
もちろん出来るだろう?に笑顔で応え、立ち尽くすいつきの、いつもよりおめかしの服を見る。
政宗が選んだのか小十郎が選んだのか、どことなく昭和の香りがするが、まあこれはこれで似合っているので問題はない。

「いつきちゃん、俺様がとびっきり可愛くしてあげる」