職業 | ナノ

wait


震える声で歌ったことは覚えている。
でも、他は何も覚えていない。
お兄さんたちの顔とか、言ったこととか、いつ部屋を出たとか。

「ここで待っていろ」

頷いて、渡されたココアの温かさが分からなくて、ふかふかのソファに沈んで消えてしまっても誰も気づかないのかな、と思った。
そう思うと涙が溢れそうで、車の中でお兄さんが言った「泣くな」がココアに浮かんで、時計の音が優しくて、正面に腰を下ろした男の人の笑顔も優しかった。

「お嬢ちゃん、迷子?」