職業 | ナノ

stop


待っていろ、と言ったはずの場所には、いつきに似ても似つかない男が一人いた。

「girl…いつきは?」
「ちょいとヤボ用。ビルからは出てないから安心してよね」
「ったく」

ドスッと腰を下ろし、政宗はポケットからタバコを取り出した。

「無期限禁煙じゃなかったの」
「そんなに画数の多い漢字は知らねえな」

最近の分煙政策のせいで、この間まであったはずの灰皿が撤去されている。
さらにマッチもライターも切らしている。
手持ち無沙汰に天井を見ると、唾を飲み込む喉が鳴った。

「ねー伊達ちゃん」
「ああ?」
「…もう歌わないの?」

天井を見て、天井を見て、猿の顔は見れなくて。
喋りづらい体勢だからと理由をつけて、じっくりと返事をした。

「歌わねえよ」