職業 | ナノ

smile


ガラス窓の向こうで、小太郎が手を振っている。
先程入ったばかりなのに、もう帰るようだ。

「仕事が早いねえ」
「君が遅すぎるんだよ」

出入表にサインを書かせるために、のそのそとガラス窓へ向かう。
小太郎の他に、頭がもう一つ。

「ん?」
「笑顔のお兄さん!」
「ああ、政宗と一緒に来た子か。どうした?」
「小太郎を送りに。おらたち、知り合いなんだ」

屈託ない笑顔を向けられ、守衛もつられて笑顔になる。
あの歌声はこの子かな、と思わせるような笑顔だ。

「かわいいなあ」

簡単な別れをしているのを見るのは無粋なので、ガラス窓を閉めて、友人の方に戻った。

「あーくそっ楽しみだな、本当」
「うむ」
「君たちはせいぜいよからぬことを妄想して楽しんでいたまえ」

同じ笑顔でもこの笑顔は、あの歌声はこの子かな、と絶対思わない笑顔だった。