part 「小太郎、おら、大変なことになってんだ」 二人きりになり、小太郎の顔を見ると、安心からため息がもれた。 「おら、台風の目だ。お姉さんの中ではいいいいいつきになっちまったし、本当メッタメタ」 長い長い廊下を逆走する。 時間が巻き戻るなら、巻き戻したいかもしれない。 毎年夏に遊びに行く、小田原の屋敷。 小太郎はこんなに大きかっただろうか。 自動販売機を直せるほど、機械に強かっただろうか。 「色々ちゃんと説明する。まだ自分でもよく分かってねえことがたくさんで、どうしたらいいか分かんねえけど、待っててくれねえか」 繋いだ手には、まめができている。 頷いた顔は、大人になっている。 いつきだって、いつか胸を張って並んで歩けるはず。 守衛室のノックでお別れ。 きっと晴れ晴れしたお別れ。 |