職業 | ナノ

secret


いつきは知っている。
あらら、の状況に、本当に「あらら」と言える人間は少ないのだと。

「あらら」
「猿!どうしてここにっ!」
「自販機が壊れた音したから、おこぼれに預かろうかと思いまして」

残念ながらおこぼれはかすがの手元で爆発した、と言おうと思ったが、小太郎は黙った。
言ったところでどうしようもならないし、どうせそこら辺の炭酸系のジュースはもう駄目になっているはずだ。

「それにしても大集合だね。お、お嬢ちゃんまで。お名前決まった?」

ああ、とか、うん、とか、少しもじもじしながら答えると、猿がつついてきた。
他の人に初めて名前を教える瞬間が、缶まみれなのは置いといて、本名を知っている小太郎に教えるのは恥ずかしい。
そもそもじっちゃにも小太郎にもまだ何も伝えていない。

「彼女、新入りか?」
「いいいい、いつきって言います!」

もう、ぐだぐだだ。
いつきあの日の小太郎の顔を、二度と忘れることはないだろう。

「よろしく、いいいいいつき」

それとかすがの大真面目な顔も。