職業 | ナノ

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もしかしたら自分かもしれない誰かが頑張って、東京へ行けることになった。
じっちゃの家に住む、と嘘をつき、荷物を持たずに家を出る。
母も父も、すべて分かっている気がした。

「簡単だなあ」
「何がだ」
「家出」
「家出か」

ポップソングの代わりのバイオリンが、車を優雅に変えていく。

「今なら引き返せるぜ」
「したら田んぼの真ん中で歌い続けるだけだ。何も変わらねえ」

スポットライトが夕焼けこやけ。
鎌をマイクに野外ステージ。
ほら、何も変わらない。

本当は。
マイクを持って、綺麗な服を着て、スポットライトを浴びて、カラス以外の声援が欲しい。
カカシの手を引くのではなく、かっこいいお兄さんに手を引いてほしい。

「変えてみせるさ。お前はhappyになる」
「もう十分ハッピーだ」

捨て子だという事実も、優しく育ててくれた両親も、毎年笑顔で迎えてくれるおじいさんと孫も、全部。

「おらがハッピーを与える番なんだべ」
「おお、威勢がいいな」

BGMに場違いな口笛が、お兄さんの答えだった。