フラン様は私のご主人様。正しくはご主人様の妹さんなのだが、色々あって事実上彼女の専属メイドになってしまっている私は、彼女をご主人様と言ってしまう。
私はもともとしがないただのメイドだったのだが、ある日フラン様に気に入られ(理由は不明)、ご主人様であるレミリア様に「あなたが世話しなさい」と言い付けられた。
フラン様は無邪気でかわいらしい方だ。ただ、少し乱暴なところがあるとかないとか。私がレミリア様に命をうけたとき、メイドの先輩方は「下手したら殺されるわ」と私を気遣ってくれたほどだ。
私にはそれが信じられない。
「ねえなまえ。またお話を聞かせてくれる?」
「ええ、もちろんです。フラン様」
フラン様は私の話を嬉しそうに聞いてくれる。私の話、というのは大抵外の話だ。私がまだここで働く前、外で自由に野垂れ死にそうになりながら生きていたこと。その時出会った人や物。フラン様にはそれが目新しいらしく、お話するたびにこにこしてくれる。
現に今、私が「もちろんです」と言ったのを聞いて、手を叩いて喜んでくれた。
「今日は動物についてお話しますね」
「動物はたくさんいるのね」
「ふふ、そうなんですよ」
前にも動物について話したことがあった。今まで話したのは犬、うさぎ、馬…だったかな。
今日は猫について話そう。
「猫っていう動物の話です」
「ねこ?」
「ねこ、そうです。猫は不思議な動物なんですよ」
「ど、どんな風に不思議なの?」
わくわくしたようで、きらきらと目を輝かせてフラン様は身を乗り出した。私がお話をすると、こう。フラン様はここにずっといて、不満なんて漏らさないけど(きっとレミリア様のために)外への憧れはきちんとあるんだろうな。
「猫はこんなにちっちゃくて、こんな感じ、なんです」
「弱そうね?」
「弱そうですが、悪魔の使いなんて言われているそうですよ」
「それじゃあ強いのかしら…」
私の描いた稚拙なイラストを見て、フラン様は素直に感想を述べる。弱そうに見えるのは私のイラストのせいだろうが、気にはしない。
「猫は飼い主に体をこすりつけるんですよ」
「どうして?」
「何故だと思います?」
「うーん…甘えてるのかしら」
「それが違うんですよ」
「なまえのことだからそう言うのだと思ったのに」
私が普段、優しさだとか生温いことを言っているせいだろうか。フラン様はまたそういうことを言うと思ったらしい。でも今日は違う。
「他の猫が飼い主に近寄らないよう印を付けているんですよ」
「…へえ!」
「自分のにおいをつけてるんだそうです」
私が言い切る前だろうか後だろうか。フラン様はもう私に抱き着いていた。そして頬をすりすり。ああ、フラン様の甘くていい匂い。…じゃなくて!
「フラン様、離れてください…!」
「いやよ!なまえに印をつけてあげるの!」
「そんな、逆ですよ!私飼い主なんかじゃ……」
「構わないわ!」
「ねえ、猫はどうして印をつけるの?」
「…飼い主を自分のものにしたいから、だそうです」
「私と同じね!」
その後、私はあまりに「お話」が長いと不審に思ったメイド長に助けられるまでいやと言うほどマーキングされた。
100610
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