眠れない。
目がぎんぎん。なにが原因なのかも不明。そういえば、昼にうたた寝してたんだっけ…

どうしよう…のび〇君さながらの、睡眠欲が私の売りなのに。時計を見ると、もう布団に入って2時間が経っていた。
図書館に行って本を借りてこようかな…。文字列を眺めていれば、きっと睡魔も襲ってきてくれるはずだ。




ギィィィ…古びた扉の嫌な音。こんな時間まで起きてることなんてないからか、少しドキドキする。

「誰?」

図書館の奥から、聞き慣れた声。パチュリーさんだ。
まだ起きてるなんて、パチュリーさんも私と同じで眠れないのだろうか。

「私です、パチュリーさん」
「なんだ…なまえだったのね」
「眠れないので、本を借りようと思って……パチュリーさんもですか?」
「いいえ、私はまだ眠る時間ではないから…」
「えっ…もう10時ですけれど」

私を見つめていたパチュリーさんの瞳が分厚い本に戻る。よくあんな分厚いのを読む気になるよなあ…私には到底無理だ。

「あなたと少し、生活のリズムが違うのよ」
「そうなんですか…すごいですね」
「あなたが早寝なだけよ」

パチュリーさんは本から目を離さない。もしかして私って…邪魔?
普段は一人、静かに読書しているところを他人に邪魔されたくないはず。私だって睡魔を邪魔されたら嫌な気持ちになる。パチュリーさんは感情を隠すのが私よりうまい。もし嫌な気持ちになっていても、顔には出さないだろう。

「わ、私はちょっと本を借りに来ただけなので、部屋に戻りますね!」

そこら辺にあった本を手にとり、部屋に戻ろうとする。…が、服の裾が引っ張られてしまい、派手に転んでしまった。

「いたい…」
「ごめんなさい…あの、あなたにその本は難しいわ。私があなたに合う本を見繕ってあげる」
「…へ?」
「それはずっと昔の論文よ。せめてお話がいいでしょう?」
「そうですけど…」

眠気を誘うためだから、なんていえない……パチュリーさんが選んでくれるのだから、文句なんて言わないけれど。

「これは、ドラゴンの話よ」
「ふむふむ…じゃあそれで」
「いえ、こっちもいいわよ。ミステリーものなの」
「そっちでお願いします」
「まだたくさんあるわ」
「そ、そうですね」

パチュリーさんの中のなにかに火がついたのか、ものすごい勢いで私にいろんな本を薦めてくれる。こんなに熱いパチュリーさんは初めてだ。

「そろそろ寝ようと思うんですが…」
「………」
「パチュリーさん?」
「まだ、本を選んでいないわ」

パチュリーさんが本を好きなのは知っていたけれど、ここまで好きだとは…。寝るとは言ったけれどまだ私は眠くないし、パチュリーさんに付き合おう、うん。





「あら…もうこんな時間」
「さすがにもう眠ったほうがいいかもしれませんね」
「そうね……」

私の言葉を聞いて、パチュリーさんは残念そうに呟いた。
あれから結局、「私に合う本」は見つからなかった。この時ばかりは、自分の脳が妬ましかった。

「付き合わせてしまって…悪かったわ」
「そんな、パチュリーさんこそ私のために色々考えてくれて…!」
「そうじゃないのよ」
「…?」

「なまえはあまり図書館に来ないでしょう」
「う…はい」
「だから、今日は来てくれて嬉しかったの」
「…えーと?」
「…その、本をあんなに紹介したのは、なまえと一緒にいたかったから……なのよ!分かりなさい!」

顔を真っ赤にして俯きがちに、小さな声で。女の子相手に、ドキドキするなんて。抱きしめたくなる衝動を抑えて、私も口を開く。

「また来ますよ、昼間に」
「…!」
「あと、会いたい時はパチュリーさんも私のところまで来てくださいね」
「うう……分かったわ」
「じゃあおやすみなさい」
「お、おやすみ…なまえ」

扉を閉めるまで、にこやかに余裕ある表情を作る。
ギィィィ…バタン。完璧に閉まった。

なにあれ、あのパチュリーさん、あれが萌え?っていうの?かわいい、守ってあげたい、ぎゅって抱きしめたい…力を込めてしまったら、壊れそうだけれど。
鼓動が頭に響くほどうるさい。体がぽかぽかして、不思議な感覚。今日はもう、眠れそうにない!

一緒に夜更かし


100407

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