「薬局寄ってもいい?」
「うん」

水曜はポイント2倍なんだとかで、薬局へゴー。大雑把な彼女のくせにポイントだとかには気を使う。ずっと前に「いいお嫁さんになるよ」と冗談めかして言ったら、「ただ単に貧乏臭いだけだよ」と笑われた。
お嫁さんには貧乏臭さが必要だと思う。過度な貧乏臭さは必要ないけどね、うん。そういうのは恥ってものだ、ていうかアレ、オバタリアンというやつだ。
ていうか俺はなにを考えてたんだっけ、ああそうだ。「いいお嫁さんになるよ」と言ったあとに「秀のお嫁さんにならなってもいいよ」とか言われたいって話だった。あれ違う?
ぼんやりと一人考えているとなまえはむくれたように「なんか話してよ」と言った。

「ごめん、考え事してた」
「…フーン」
「なまえのね」
「……なんか恥ずかしいよ」

そうこうしてるうちに薬局へ到着。安売りされているトイレットペーパーを眺めながら店内に入っていく。

「なに買うの?」
「リップをね、もう減ってきたから」
「あれか、いちごのやつか」
「そう。次はどれにしようかなー」

恥ずかしながら、というかただの惚気なんだけど、俺となまえは一応カップルで、キスはもう済ませたんだよね。キスをするたびいちごの匂いがしたのをとてもよく覚えてる。ファーストキス…とは言わないかもしれないけど、彼女との初めてのキスもいちごだった。
という面でいちごのリップは思い出の品みたいなものなんだよね。

「またいちごでよくない?」
「彼氏に口出しされるって複雑なんだけど…」
「いちごってよくない?なまえ的にダメなの?」
「そうじゃないけど、他のリップも良さそうなんだもん」
「どれ?彼氏の視点から判定してあげよう」
「これと、うーん…これもいいかも?」

そう言って差し出してきたのはどれもいちごの匂いじゃない。おい、俺の主張は無視ですかそうですか

「全部却下」
「ええええ!だってこれ、ぷるるんだってよ?こっちはオレンジの香りだし、どれもいいじゃん」
「今まで使ってたやつはどこかなー」
「なんでそんなにこだわるの」
「ほら、あれ、思い出の品じゃん」
「なにそれ」

きょとんとするなまえ。言えない、だってリップが云々なんて変態みたいじゃん。

「まあ、いいじゃん。好きなの買えば?俺はいちごを希望するけどね」
「なにその物言い…」

と言いながらなまえはうるおい持続という謳い文句の、オレンジの香りのリップを持ってまた別のコーナーに歩いていった。
オレンジ…か。
はあ、とため息をつくとなまえはそれを聞き付けてこちらに小走りで戻ってくる。

「いちごじゃなくてもいいでしょ」
「まあ…そっすね…」
「…オレンジだっていいじゃん、思い出にすればいいじゃん」
「……うん」

つまりはたくさんキスすればいいと。脳内変換されたその言葉をまじめに受け取ります。

「帰りにちょっと、新しいリップつけてみてよ」
「?うん、いいよ」


100509
お題:にやり様

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